大阪地方裁判所 昭和61年(行ウ)16号 判決
大阪市西淀川区御幣島六丁目七番五号
原告
株式会社笹倉機械製作所
右訴訟代理人弁護士
角谷政保
右訴訟代理人弁護士
戸田善一郎
大阪市西淀川区野里三丁目三番三号
被告
西淀川税務署長
伊丹聖
東京都千代田区霞が関三丁目一番
被告
国税不服審判所長
杉山伸顕
被告両名訴訟代理人弁護士
稲垣喬
被告両名訴訟代理人
小見山進
同
辻浩司
被告西淀川税務署長指定代理人
衛藤稔
同
辻尾茂
被告国税不服審判所長指定代理人
田中俊次
同
大野光一
主文
一 被告西淀川税務署長が〈1〉昭和五八年六月三〇日付で原告の昭和五六年二月二一日から昭和五七年二月二〇日までの事業年度の法人税についてした更正処分のうち所得金額四二億四二九五万七一二〇円を超える部分の取消を求める訴えのうち所得金額四二億四八六七万七八五八円以下の部分、及び〈2〉昭和六〇年三月三〇日付で原告の昭和五六年二月二一日から昭和五八年二月二〇日までの事業年度の法人税についてした更正処分のうち所得金額三四億〇二五六万六七一五円を超える部分の各取消しを求める訴えを却下する。
二 原告の被告西淀川税務署長に対するその余の請求及び同国税不服審判所長に対する請求を棄却する。
三 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
(申立て)
一 請求の趣旨(原告)
1 淀川税務署長が昭和五八年六月三〇日付で原告の昭和五六年二月二一日から昭和五七年二月二〇日までの事業年度の法人税についてした更正処分のうち所得金額四二億四二九五万七一二〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定を取り消す。
2 被告淀川税務署長が昭和六〇年三月三〇日付で原告の昭和五七年二月二一日から昭和五八年二月二〇日までの事業年度の法人税について更正処分のうち所得金額四三億〇二五六万六七一五円を超える部分を取り消す。
3 被告国税不服審判所長が昭和六一年一月三一日付で原告の右2の処分についてした審査請求を却下した裁決を取り消す。
4 訴訟費用は、被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
主文同旨
(主張)
一 請求原因(原告)
1 原告の昭和五六年二月二一日から昭和五七年二月二〇日までの事業年度(以下、「昭和五七年二月期」という。)及び昭和五七年二月二一日から昭和五八年二月二〇日までの事業年度(以下、「昭和五八年二月期」という。)の法人税について、原告のした確定申告、これに対して被告淀川税務署長のした更正(以下、「本件各更正」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(ただし、昭和五七年二月期についてのみ。以下、「本件賦課決定」という。)これに対する審査請求と被告の国税不服審判所長の裁決(以下「本件裁決」という。)の経緯は、別表1記載のとおりである。
2 しかし、昭和五七年二月期のうち所得金額四二億四二九五万七一二〇円を超える部分及び昭和五八年二月期のうち所得金額四三〇億〇二五六万六七一五円を超える部分の本件各更正は、原告の所得金額を過大に認定したものであるから、本件各更正は違法であり、また、これを前提とする本件賦課決定も違法である。そして、本件各裁決のうち昭和五八年二月期については減額更正に対する不服であつてもその内容が原告にとつて不利益な内容を含むものであるのに漫然と却下した点に違法がある。
3 よつて、原告は、本件各更正のうち昭和五七年二月期については所得金額四二億四二九五万七一二〇円を超える部分、本賦課決定、並びに本件各裁決のうち昭和五八年一二月期分の取消を求める。
二 請求原因に対する被告らの認否
請求原因1の事実を認め、同2は争う。
三 被告西淀川税務署長の主張
1 原告は、機械装置の製造等を業とし、被告淀川西税務署長から青色申告の提出の承認を受けた法人税法二条一一〇号にいう同族会社であり、その昭和五七年二月二〇日現在の資本金額は、九億〇七五〇万円である。
本件各更正の理由(確定申告の所得金額についての加算減算の事由)は、同表2、3のとおりであつて、その主要なものについて敷行すると、次の通りである。
(一) 特別報酬 三四一五万五〇〇〇円
(別表2の〈2〉)
原告は、頭書金額をアルジユベールⅠプロジエクト及びメデイナヤンブープロジエクトの工事原価であつて、会計監査法人アユーテイ(以下「アユーテイ」という。)に対する特別顧問料であるとしているが、右はこれらの工事を含む請負工事代金の保留金を原告が当時回収するために必要とされていた「納税証明書」(最終証明書)を早期に入手するため、その発行処理を遅延させていたサウジアラビアの税務職員に対して供与した工作資金であつて、製造原価その他原告の経費として認められるべき性質のものではない。
(二) 特別損失 一五億四六四七万二七八八円
(別表2の〈3〉)
原告は、頭書金額をイラン国原子力庁との間で締結したプシエール海水淡水化プラント工事(以下、「プラント」という。)に関して生じた仕掛品の評価損であるとしているが、右は、この工事相手方による昭和五五年四月二二日の契約解除によつて生じた損害賠償の基因となる損害に係る損失である。そして右損失は、その性質上、原告が既にプラントに関して受領ずみの前受金一九億六四七万五七二七円によつて補填されるべき性質のものであるから、その前受金を全く考慮せず頭書金額のみをとらえて昭和五七年二月期の損金に計上することはできない。
2 原告は右(一)につきアユーテイの領収書等を入手してそれをその隠ぺい又は仮装の手段としたうえ、昭和五七年二月期の原告の確定申告書を被告淀川西税務署長に提出したが、右は、同事業年度の課税標準の基礎となるべき事実の隠ぺいないし仮装にあたる。そこで同被告は、本件各更正のうち同事業年度分についてその増差税額に基づき、右(一)の分につき国税通則法六八条一項に従い前記重加算税を賦課し、その余の分につき同法六五条一項に従い前記過少申告加算税を賦課し、本件賦課決定をしたものである。
四 被告国税不服審判所長の主張
本件更正のうち昭和五八年二月期については、原告のした確定申告の所得金額及び法人税額を下回る、減額更正であつて(別表1参照)、その効果としては原告に有利な処分であるから、その減額の理由のいかんを問わず原告にはその取消しを求める利益はない(最高裁判所昭和五二年(行ツ)第一二号、同五六年四月二四日第二小法廷判決・民集三五巻三号六七二頁)。したがつて、本件各審査請求のうち右事業年度分についてこれを却下した同被告の裁決は、正当である。
五 本案前の主張(被告淀川西税務署長)
原告は、本件各更正のうち、〈1〉昭和五七年二月期については、原告のした確定申告による所得金額四二億四八六七万七八五八円より低額の四二億二九五万七一二〇円であるとしてこれを超える部分全部の取消しを求め、また、〈2〉昭和五八年二月については、減額更正であるにもかかわらずその取消しを求めている(別表1参照)。
このうち、〈1〉昭和五七年二月期分については、原告のした確定申告による所得金額(四二億四八六七万七八五八円)以下の取消しを求める部分につき、〈2〉昭和五八年二月期分については、その全部につき、訴えの利益はない。
六 被告らの主張に対する原告の認否および反論
1 三の1のうち、原告が主張の営業を目的とし、被告西淀川税務署長から青色申告書の提出の承認を受けた同族会社であることを認め、同(一)、(二)の点を争う。
まず、同(一)については、原告は、主張の金額をアユーテイに対する特別報酬として支払ったものである。
すなわち、原告はアユーテイとの間で、昭和五〇年以来会計事務に関する基本契約を締結し、基本的顧問料を支払つてきたが、昭和五三年からは、これに加え、特別顧問契約を締結し、税務申告後の税務当局の調査処理の促進、税務当局からの照会に対する応答等、税務完了明細書の取得までの一切の業務をアユーテイに委託した。その特別顧問料の額は、当初の昭和五二年度分が八万サウジリアルであつたのが、以後一五万サウジリアル、四五万サウジリアル、五〇万サウジリアル(昭和五五年度分のもので、昭和五六年一二月決定の本件のもの)に順次値上げされたのである。
(なお、被告西淀川税務署長がその主張の根拠とする乙第三号証の一ないし三は、原告の税務調査にあたつた大阪国税局の佐竹成司主査(以下「佐竹主査」という。)が原告従業員の反対を押し切り保管担当者にも無断で入手したものであり、証拠能力はない。しかも佐竹主査は、乙第三号証の一ないし三の断片的な記載を根拠にして抱いた疑惑に関し、その作成者を呼び付け威嚇して供述を得て、あるいは、自らの疑惑に沿う供述を得たとの虚構を構え、乙第四号証の調査メモを作成し、供述者の署名を強要した。このような乙第四号証も証拠能力を欠くものであり、これらの違法収集の証拠を主たる根拠として本件各更正に及んだものである。したがつて、これらを根拠にして同被告の主張を裏付けることはできない。)
次に、同(二)については、原告が仕掛品評価損として計上した一五億四六七万二七八八円は正当なものである。
すなわち、プラントに関して原告が受領した前受金と仕掛品とは対価関係になく、原告を含むプラント受注者(以下、「原告らプラント受注者」という。)は主張の契約解除後に法的相殺の利益を放棄して、前受金返還債務を復活させている。右前受金には銀行保証がなされていることからも、原告がその返還義務を負ついることは明らかである。しかも、右評価損に対する保険金等による補填もない本件においては(法人税基本通達二-一-三七参照)、その損金への算入は正当な処理というべきである。
なお、右契約解除をめぐる法律関係については、イラン民法(ひいてはフランス民法)に準拠すべきである。
2 三の2の事実は否認し、四及び五の主張を争う。
(証拠)
本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりである。
理由
一 請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 ところで、原告は、本件各更正のうち、〈1〉昭和五七年二月期は所得金額四二億二九五万七一二〇円を超える部分について、〈2〉昭和五八年二月期は所得金額三四億〇二五六万六七一五円を超える部分についてその取消しを訴求している。
しかしながら、昭和五七年二月期についてみると、同事業年度における確定申告の内容が取消しの訴求の範囲内の「所得金額四二億四八六七万七八五八円、法人税額一五億六九七七万八八〇〇円」であることは、当事者間に争いがないところ、本件全証拠によつても、原告が右事業年度の所得金額ないし法人税額が右申告額以下であることを理由とする更正の請求をしたという形跡も窺えず、また、本訴において右申告が錯誤等により無効であるとの主張を原告がしているわけでもない本件においては、右申告額以下の部分について原告にその取消しを求めるべき訴えの利益はないというべきである。
また、昭和五八年二月期についてみると、右被告ら主張のとおりの減額更正にあたることは、当事者間に争いがないところ、このような場合においては原告に訴えの利益はないというべきである(最高裁判所昭和五二年(行ツ)第一二号、同五六年四月二四日第二小法廷判決・民集三五巻三号六七二頁、及び最高裁判所昭和五〇年(行ツ)第九四号、同五一年四月二七日第三小法廷判決民集三〇巻三号三八四頁参照)。これに反する原告の主張は採用しない。
以上によると、原告の本件更正の取消しを求める本訴請求のうち、〈1〉昭和五七年二月期は右申告額以下の部分について、〈2〉昭和五八年二月期はその全部について、いずれも訴えの利益を欠くから訴え却下を免れず、また、本件各裁決のうち右〈2〉の処分についてされた裁決(その内容が被告国税不服審判所長主張のとおりであることは、成立に争いがない甲第五号証、乙第二号証によつて認めることができ、右認定に反する証拠はない。)にも違法の点はなく、この点の本訴請求は失当であり、請求棄却を免れない。
三 そこで、進んで本件各更正のうち昭和五七年二月期の原告の前記申告額を超える部分及び本件賦課決定について検討する。
1 被告西淀川税務署長の主張1のうち、原告が同被告主張の営業を目的とし、同被告から青色申告書の提出の承認を受けた同族会社であることは、当事者間に争いがなく、また、同(一)、(三)を除くその余の点は原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなされる。
2 同(一)について
〈1〉成立に争いのない甲第四八号証、第五〇号証及び乙第三証の一ないし三、〈2〉原本の存在及び成立に争いのない甲第三一号証、乙第五号証の一及び第九号証の一ないし四、〈3〉証人阪本雅紀の証言により成立を認める甲第二四号証及び中村吉宏作成部分については成立に争いがなくその余の部分については証人佐竹成司の証言によつて成立を認める乙第四号証、〈4〉弁論の全趣旨及び右によりその存在と成立を認める甲第二五号証、並びに〈5〉証人佐竹成司の証言に右争いのない事実を総合すると、佐竹主査は、昭和五七年九月二〇日ころから部下職員とともに、昭和五七年二月期の税務調査のため原告方に赴き、同所において調査に従事した。原告は、右調査に協力をし、山本博経理課長を窓口とし、原告の会議室を右調査のため佐竹主査らに提供するとともに、必要な資料等を随時提供する態勢をとつた。ところが、調査が進むうち、原告はサウジアラビアのアユーテイに、昭和五〇年ころ四万サウジリアル、同五四年からは一五万サウジリアルの基本報酬を支払つていたが、同年一二月ころ、アユーテイに対し、当時の日本円で三五〇〇万円(五〇万サウジリアル)とかなり高額に上る同(一)の特別報酬を支払つている処理をしていることが判明したが、この報酬を裏付ける契約書類の提出もなかつたこと、及びその支出の社内稟議書も経理課の起案にかかるものであり内容も簡略なものであつたため、佐竹主査らは、その内容に疑念を抱き更にこの点の調査を進めることとした。そこで、佐竹主査らは、原告にこの点ついての海外事業所と原告本社との交信記録類の閲覧を求めたが、格別の資料の提供がなかつたため、佐竹主査らは、昭和五七年九月二八日、山本課長とともに直接右業務を主管する原告の海外統括室担当者(角谷取締役)の席に至り、山本課長の了解のもと、資料の提示を受け当時の海外事務所の責任者の中村吉宏から角谷取締役あての〈秘〉の表示のある書簡(乙第三号証の一ないし三はその写。)を含む関係資料を収集した。佐竹主査は、右資料を検討のうえ、中村吉宏と面談したいとの希望を山本課長に伝えたところ、即日、同人との面談が実現し、同人は、右同被告主張の性質の金員であると認めるに至つた。そこで、佐竹主査は、中村吉宏の右供述内容をメモ(乙第四号証)として作成し、同人に対し署名を求めたところ、同人は、「以上のメモ内容に相違ありません」と記載し、署名に応じた。
なお、右書簡には「例の〇」、「肝心の裏金」、「アンダー・ザ・テーブル」等の記載があるが、これら高額に上る金員の支出の根拠となる契約を直接示す契約書類は原告から提出されず、また原告社内で右支出の了解を得るため作成された書類ないし資料の提出もなかつた。原告がその工事原価と主張する契約においては、当時サウジアラビアの税務当局による税務完了証明書がないときは工事完了後も請負代金の一部が留保されることとされており、右当時留保金は、五パーセント、約二〇億円にも上るとみられる。
ところが、同年一〇月一日には、中村吉宏は、前記供述を翻し、前記書簡はアユーテイとの間の特別報酬の交渉を記載したものであると主張するに至つた。しかし、アユーテイの提供役務のうち基本報酬に対応するものと特別報酬に対応するものとの区分につき、右調査の過程では格別の説明がされてはいなかつた。
と認めることができる。
もつとも、甲第一六号証の一、二、第一七号証の一ないし三、第一八号証、第一九、二〇号証の各一、二、第二五、二六号証、証人中村吉宏及び同坂本雅紀の供述中には、右認定に反し原告主張に沿う記載ないし供述があるが、原告の前示所得金額から推認される原告の事業規模及び会計監査法人たるアユーテイの性格とも対比すると、これら記載ないし供述自体不自然に過ぎるし、中村吉宏が供述を変えたことにつき合理的理由が見当らず、これらににわかに信を措くことはできず、他に認定に反する証拠はない。
右認定事実によると、同(一)の金員は、同被告主張のとおりのものと推認することができ、損金にあたらない。(なお、原告は被告らが証拠として提出した文書等(乙第三号証の一ないし三、乙第四号証)は証拠能力がない旨の主張をするが、右主張事実を窺うことができないこと前認定のとおりである。よつて、税務調査における違法が本訴の証拠能力に及ぼす影響が一般的にどうであるかにつき判断するまでもなく、右主張は失当というべきである。)
3 同(二)について
右特別損失金が被告西淀川税務署長のとおりの仕掛品の評価損にかかるものであつて、その損失が主張の工事契約解除によつて生じたものであることは、〈1〉成立に争いのない甲第五一号証、〈2〉原本の存在及び成立に争いのない乙第一〇号証ないし第一二号証の各一、〈3〉証人佐竹成司及び同真崎勇作の証言並びに弁論の全趣旨により認められ、これに反する証拠はない。
ところで、前受金とは、その性質上、営業取引に関する契約に基づいて受け入れられた手付金その他の金銭の前受額であつて、金銭による返還は行われず商品の引渡し・役務の提供等により代金等の一部に充当され又は売掛金と相殺されて清算が行われることが通常であることは、当裁判所に顕著である。そして、本件についてみると、〈1〉前顕甲第五一号証、乙第一〇号証ないし第一二号証の各一、〈2〉原本の存在及び成立に争いのない甲第一三号証、〈3〉証人真崎勇作の証言(ただし、その意見にわたる部分を除く。)によると、原告においても前記契約の相手方においても、前受金については、右通常の取扱いと同様の処理がなされていたこと、昭和五五年四月ころ、本件プラント契約は発注者から契約解除され、以後、契約当事者間で右契約解除による損害賠償の交渉が行われたが、その際、原告らプラント発注者は、その主張の損害賠償額から前受金を控除した残額を請求し、他方、相手方もその主張の損害賠償額から右前受金に対応する前渡金を控除した残額を損害として請求し、原告を含む右契約当事者間では、前受金は清算処理し、返還請求をしないことを前提にしていたことが認められ、これに反する証拠はない。
右によると、右評価損の金額は、受領ずみの前受金と収支の計上時期が対応しこれによつて補填されるべきものであるところ、少なくとも右前受金が一七億九二九六万四六六一円以上であつて、右評価損の金額を超えていることは、前顕乙第一三号証並びに証人真崎勇作の証言及び右により成立を認める甲第五四号証によつて明らかである。したがつて、右が損金ではないとした同被告の判断に違法の点はない。
なお、原告の指摘する通達の取扱いも、収益の計上時は権利確定時であるとの原則に立つたうえ、損害賠償金等の帰属時期に関してはその実態を考慮して特に例外を定めた趣旨のものであることが明らかであるから(成立に争いのない甲第七、八号証参照)、右行政上の取扱いの趣旨を、既に前受金の収受がなされ、その当事者間で原告の損害賠償金に充当された処理がされている本件のような場合にまで当然に及ぼし所論のようにいうこともできない。他に右認定判断を動かすべき資料もない。
また、原告は、前受金が銀行保証がなされているから返還義務がある旨主張するが、前受金に銀行保証がなされていることから直ちに返還義務があると解することはできない(なお、原告は、本件プラント契約の法律関係についてはイラン民法(ひいてはフランス民法)に準拠すべきである旨るる主張するが、前受金の実際の処理に関しては前認定のとおりであるのみならず、本件は内国法人たる原告に適用されるわが国の法人税法上の問題であつて、右主張は採用できない。)。
4 同被告の主張2については、前記2の認定事実に、前顕甲第三一号証、第五〇号証、乙第九号証の一、甲第一九号証の一、二の存在自体及び弁論の全趣旨を併せ認めることができ、右を動かすべき証拠はない。そして、これにより増差税額に基づいて計算すると、本件賦課決定のとおりの重加算税及び過少申告加算税の額となることは計算上明らかである。
以上によると、本件各更正のうち昭和五七年二月期について原告の前記申告所得額を超える部分、及び本件賦課決定に違法の点はなく、この点の本訴請求は失当であり、請求棄却を免れない。
四 よつて、訴訟費用の負担についての行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条に従い、主文とおり判決する。
(裁判長裁判官 田畑豊 裁判官 園部秀穂 裁判官 田中健治)
別表1
本件各更正、賦課決定、各裁決の経緯
昭和57年2月期(昭和56.2.21~昭和57.2.20事業年度分)
〈省略〉
昭和58年2月期(昭和57.2.21~昭和58.2.20事業年度分)
〈省略〉
別表2
更正後の所得金額の内訳(昭56.2.21~昭57.2.20事業年度分)
〈省略〉
別表3
更正後の所得金額の内訳(昭57.2.21~昭58.2.20事業年度分)
〈省略〉